top of page

卒展WebインタビューVol.1 詩を音楽で表現するには…?


今年の音環(音楽環境創造科)の卒展で発表する人はどんな研究をしてどんなことを考えているのだろう…?そんな疑問を持つ方は少なくないはず。そこでこの連載企画では各研究室から一人ずつインタビューに答えてもらいそれぞれの作品や研究についてじっくり話を聞いていきます。

第一弾はプロジェクト創作の田村研究室から鹿田愛さん。詩の世界を音楽で表現することをテーマにした背景には一体どのような考えがあるのでしょうか…?


鹿田愛さん
鹿田愛さん


––––鹿田さんの作品はアートパス(音楽環境創造科2、3年生の研究発表会)の時から一貫して詩を音楽で表現することをテーマにしていたと思います。今回の卒業制作はどのようなところに力点を置きましたか?


今までは和歌をモチーフにしていたけど、今回はしっかりとした詩の構造があるものを選んで、それを音楽で表現しようというところをもう少し細かく丁寧にやる、というのが今年の目標だったんです。そこで立原道造という詩人を取り上げました。


––––今回、論文のタイトルは「詩と音楽の照応に関する考察―M.ラヴェル《夜のガスパール》の検証及び、自作における試み― 」ですが、先行研究としてラヴェルの夜のガスパールを選んだ理由は?


私が一番ラヴェルの《夜のガスパール》に興味を持った点は、歌曲とは違って言葉を使わずに詩の世界を表現しているところ。フランスのベルトランという詩人の散文詩集『夜のガスパール』が元になっているんだけど、楽譜でみると、各曲の冒頭に詩が掲げられているんだよね。


––––ガスパールというと絵本の『リサとガスパール』が思い浮かんじゃう(笑)けど、ラヴェルがモチーフにしたのはベルトランという人が書いた詩集だったんだ…!


実はベルトランは若くして亡くなっていて、生前は日の目を見なかったんだけど『夜のガスパール』は死後に友人が出版したのち、他の詩人に影響を与えるようになったみたい。私はフランス語の詩の意味を汲み取ってそれをどのように音楽で表現しているか、というところを研究しました。


–––立原道造の詩を選んだのも理由がある?


『夜のガスパール』ではベルトランが作り出した架空の夜の妖精のお話とかがあるから、夜の世界観に興味を持っていて、夜から朝への時間の展開を表現した立原の『暁と夕の詩』を選びました。また立原は西欧の詩の形式である「ソネット」を日本語の詩の形式として取り入れたのも特徴的。4つの連からなり4,4,3,3行で出来ている、割と古典的な構成をした詩をどのように音楽で表現できるだろうか、ということを意識していました。


––––論文の中では、詩そのものを分析する前に立原自身の思いや考えを丁寧に記述していました。彼は自身の情緒や感情の「続き」として詩集を捉えている、ということを分析していたのが印象的だったんだけど、これはどういうことなんだろう。


この時代は、自分の内面を映し出してる鏡ぐらいの気持ちで、「自分ごとです」っていうのが明らかな詩が多くてそういうことを言っているんだろうと思う。頭の中の続きに詩があるというか。心の叫びっていうようなイメージで取り上げました。


––––なるほどね。作曲段階においては、言葉に沿って音形をいくつか決めて、それを反復していくというのが基本的な手順なのかな。


うん、そうだね、ただ〈失はれた夜に〉〈さまよひ〉〈朝やけ〉の 3曲作って全部同じなわけではなく、1曲目は一つの音形をたくさん展開していき、2曲目と3曲目は語りを入れたり、自由に楽器と歌で呼応するイメージで作りました。


––––特にこだわったポイントは。


ソプラノを使ったということですね。詩人は男性なんだけど、詩の内容はさっきも言った通り、自分の「続き」として内面的なものだから、孤独とか寂しさとかその悲痛な感じが出るように、音域の高いソプラノで表現しましたね。楽器はピアノ、フルート、チェロを使ったんだけど、管楽器と弦楽器、そして減衰していく(弾いた後に音が段々小さくなっていく)ピアノという全て性質の違う楽器を組み合わせたかったというのがあるかな。


––––演奏を聞かせてもらいましたが、とてもロマンチックな感じがしました。現代音楽にはあまりない感じ。


難しくて伝わらないという方向性にはしたくないなと思っています。参考にしているのがラヴェルだからおよそ100年前だけど、技法が100年前のものを踏襲していたとしても現代の感性を大事にするというのは心掛けています。


––––それは聞いていても感じた!田村研究室は他にどんな作品を作っている人がいますか。


今年卒業する学生だと、グリッチノイズについて研究している人がいて、グリッチノイズというのはデジタルの音響における意図しないノイズ、エラーみたいなことですね。色々な形でノイズを発生させて曲を作っていた。他には、映像に音楽をつけることをやっていたり、バロック音楽とポップスを融合させたいという人がいたり、色々です。私が入学した時よりもどんどん多様化している気がします(笑)


––––4年間を振り返ってみて、藝大の他の学科の人との交流はどのようなことがありましたか。


教職をとってから他の学科の人と知り合う機会が多くなったんだけど、絵とコラボしたりミュージカルに奏者として参加したり、普通に器楽科の人たちと即興でやろうとかもあった!


––––楽しそう…!最後に今年のメインビジュアルは音環のロゴマークである輪が連なっていくようなイメージなのですが、それにちなんで4年間を振り返ってこの輪とこの輪が重なったなと思うようなことはありますか?


自分がこれやりたいなと思っているものを実現させて終わるだけじゃなくて、聞いてもらう人がいるとか、受け取って考えたり感じたりする人がいるっていう一方通行じゃない色々な人の「輪」のつながりを意識できるようになったかなとは思います。音楽制作だけじゃなくて、どの現場に行ってもそう、言ったことが人にどう受け取られるかということをちゃんと考えなきゃいけないなって。


––––お手本のような素晴らしい回答です。


全然できてないけど、その意識が芽生えたってだけでも大きな成長だったかなって思います!


––––卒業制作も様々な立場の人にみてもらえると思うと楽しみだね。今日はありがとうございました!


◎鹿田愛さんの公演はスタジオAにて2/15(土)14:15〜14:40に行います。


主催:卒業研究発表会2025実行委員会

助成:武藤舞音楽環境創造研究助成金

bottom of page