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卒展WebインタビューVol.3 マルチチャンネル音響システムって何ですか…?


各研究室から一人ずつインタビューに答えてもらいそれぞれの作品や研究についてじっくり話を聞いていく連載企画。第三回はプロジェクト音響の亀川研究室に所属している有田千夏さん。自身の研究のテーマでもあり、音環でよく聞くアレについて深堀りしてみました…!



有田千夏さん
有田千夏さん


––––卒業研究のテーマは「臨場感と迫真性を追求したマルチチャンネル音響作品の制作について」ですが、今回の作品はどのようなものですか?


臨場感や迫真性というのは物理的にその音空間を再現して現実世界に近づければ近づけるほど高まるように思えるけど、現実には存在しない音響空間に対しても臨場感や迫真性を感じることがあると私は思う。だから、どのように現実をデフォルメして表現するかっていうところが今回の作品の肝です。


––––例えば、森の中にいたとして鳥の声が後ろから聞こえてきて風の音が前から迫ってきて…というように聞こえてきたものをそのまま再現するような音響作品ではなく、意図的に音を動かして臨場感を出すという意味なのかな?


そうです。森の音をリアルに再現するっていう方向で臨場感を追求している作品も多くあるけど、私はそうではない方向性で制作してみたという感じ。そして雨を題材にした自作のピアノ曲を録音して作品に仕上げました。


––––さて、ぜひ聞きたいと思っていたのがマルチチャンネル音響システムって何?ということなんですが…


まずは立体音響の説明からかな!立体音響とは、現実世界のように360°囲まれているような、三次元的な音の方向や距離、拡がりなどを再現するための録音・再生方式のこと。最近は、イヤホンやヘッドフォンを使うと立体音響が聴けるゲームやサブスクリプションサービスも増えているよね。

マルチチャンネル音響システムというのは、スピーカー(=チャンネル)をたくさん(=マルチ)使って、立体音響を再生するシステムのこと。水平面以外の方向からも音が聞こえるようにするために、スピーカーを天井や床にも設置します。藝大の千住キャンパスには、藝大独自のマルチチャンネル音響システムである27.2マルチチャンネル音響システムがあります。27.2マルチチャンネル音響システムとは、NHKが開発した22.2チャンネルという標準的なフォーマットに5つスピーカーを追加した27.2チャンネルになります。



東京藝術大学千住キャンパスにある 27.2チャンネルマルチ音響システム (有田さんの論考より引用)
東京藝術大学千住キャンパスにある 27.2チャンネルマルチ音響システム (有田さんの論考より引用)


––––22.2とか27.2とかはスピーカーの数のことだよね?


そう、22チャンネルというのは頭の真上に1個と上層に8個、中層の耳ぐらいの高さに10個、下層前方に3個で合計22個のスピーカー。「.2」というのは低音再生用のスピーカーが2つという意味。藝大の27.2チャンネルというのは22.2にプラスして下層側方と後方に5個スピーカーが追加されたもの。22.2chは前方のスクリーンに映し出される映像と組み合わせて開発してるから下層は前方3個しかないんだけど、藝大は音のみで表現することもあるので側方と後方に5個追加してるんだと思う。


––––なるほど、そういう仕組みになっているんだね。ただ今回の作品は25.2チャンネルで作ってるよね?


中層に10個スピーカーがあるって言ったけど、10個の配置が前方に寄りすぎているから2個使わなかったということです。ちょっと難しいよね…でも卒展に来て、実際に見たらわかると思います!


––––いや、何となくわかってきました…!ところでマルチチャンネルについては入学時から興味を持ってた?


見たことも聞いたこともなかった。大学に入って授業で部屋を見てスピーカーがたくさんあって楽しそうだなって。2年生の時に何か研究テーマを決めなきゃって思った時にマルチチャンネル音響に惹かれて決めました。3年生も継続してマルチチャンネルで録音して、そのまま卒制まで一貫していた、という感じかな。


––––音響のことが全くわからない人からするとスピーカーを20何個も使うのって不思議な世界だと思うんだよね。でも単純に考えて全てのチャンネルでボリュームとエフェクトを変えていくっていうとかなりの労力だよね。


本当にそう。やり方によるんだけど、私は一つ一つのチャンネルで音を調整するというよりも、音楽のタイムラインに沿って音の向きを線で描けるように考えてやってたかな。でも、音の場所によってアタックが強いなとか低音が響きすぎるとかいったのは、その都度調整するしかない…。あとはマイクを立てる時にピアノに近い音と遠い音で分けて録音して、遠い音はあまり動かさず近い音を塊で動かすみたいな。


––––言語化するのが難しそうです。だけどそういう背景を聞くと面白いね。


ぜひ体感してみて欲しいです。


––––プロジェクト音響の皆さんといえば、藝祭で音響を担当してくれたことが印象に残っています。特にコロナ禍の藝祭はリアルと配信のハイブリットで開催したので、とても大変だったと思う。音響の人がいなければ藝祭というのは成り立っていなかったんだよね。有田さんも中心となって動いてくれたうちの一人です。


藝祭は少人数の学生だけで運営してるから、普通のコンサート一個回すだけでも大変なんだよね。コンサート運営だけで1とすると、録音・撮影してアーカイブに残そうとすると2

になり、編集してYouTubeに上げるとなると3になり、生配信で人に見せられるものを送りたいとなると5になる。学生運営の藝祭だからクオリティは少し妥協してもいいだろうという思いが最初あったけど、音響チームみんなで頑張っていくとやっぱり完璧にしたい。責任感を持ってやってたと思う。


––––YouTubeのコメント欄に音響が素晴らしいと絶賛されていたことを覚えています。ただでさえ藝大生が少人数の中イベントを回しているにもかかわらず、その中でも少数精鋭でクオリティの非常に高い配信を作り上げてくれたよね。


配信に慣れている音響の先輩方も協力してくださって、多くの後輩を含めチーム音環で乗り切った。個人がというよりもみんなが本当にすごかった!


––––最後に今年のメインビジュアルは音環のロゴマークである輪が連なっていくようなイメージなのですが、それにちなんで4年間を振り返ってこの輪とこの輪が重なったなと思うようなことはありますか?


大学で習ったことの輪と3歳から続けてきたピアノの輪かな。録音の授業で学んだことをベースにピアノを録り続けているし、即興演奏の授業で習ったことを活かして他大学のサークルでセッションをやったりもしてる。やっぱりピアノが好きだなっていうのを再発見できた4年間でしたね。


––––ピアノの音色を存分に使ったマルチチャンネル音響作品、楽しみです。今日はありがとうございました!


◎有田千夏さんの作品は音響制作スタジオでの常設展示となります。

主催:卒業研究発表会2025実行委員会

助成:武藤舞音楽環境創造研究助成金

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