各研究室から一人ずつインタビューに答えてもらいそれぞれの作品や研究についてじっくり話を聞いていく連載企画。第五回はプロジェクトアートプロデュースの熊倉研究室に所属している稲垣佳葉さん。千住の商店街で様々な人がパフォーマンスを行うアートプロジェクトについて語ってくれました。一体どのような様子なんでしょうか…?

––––論文は「まちなかと表現が遭遇するときー〈千住・人情芸術祭 1DAYパフォーマンス表現街〉への考察ー」というタイトルですが、まず〈千住・人情芸術祭 1DAYパフォーマンス表現街〉とは何か、簡単に説明してもらえますか。
《アートアクセスあだち 音まち千住の縁》っていう千住地域を中心に展開されているアートプロジェクトがあって、そのうちの一つのプログラムです。ちょうど千住キャンパスの横に千住ほんちょう商店街があるんですが、そこを会場として秋の日曜日の午後を使って、いろんなお店の軒先とか路上とかでプロ・アマチュアを問わないあらゆる表現者が思い思いにパフォーマンスするという、そういう企画になっています。
(2024年度1DAYパフォーマンス表現街の会場やタイムスケジュールなど詳しくはこちら→ https://aaa-senju.com/hyogengai )
––––プロアマ問わず商店街で表現活動をするというアートプロジェクトは珍しいかもね。稲垣さんはどのように関わっていたんですか。
私の所属している熊倉研究室はアートマネジメントを勉強するところなんですけど、基本的に学生は研究の一環としてアートプロジェクトの企画運営に携わることになっていて。1年生の終わりぐらいから1DAYパフォーマンス表現街の企画運営担当として携わっていました。
––––熊倉研は早い段階から実際に現場で経験を積むという特徴があるよね。具体的には、商店街のどのような場所でパフォーマンスが行われてるんですか。
商店街にちょっとした広場やスペースがあるので、大きめのパフォーマンスはそこで。あとは日曜日の午後に営業していないお店の軒先を使わせてもらうから、例えば薬局の前とかね。2024年の開催時は営業中の店舗でやった例もあって、コーヒー屋さんの軒先のお客さんの動線と被らない脇のところでコーヒーと関連した芝居をやっていたり。400メートルぐらいある商店街を練り歩きしながらパフォーマンスをやる人もいます。近所のお寺でもパフォーマンスがあります。
––––軒先のほんとに小さなスペースでのパフォーマンスがあるんだね。
特徴としてお立ち台みたいなステージがなくて、私たちが歩いている場所と地続きの高さと何も変わらないところでやっているという感じですね。何か線が引かれているわけでもなく。
––––音響とかも全部自分たちでやってもらう?
そう。機材とかはこっちから貸し出してなくて、自分たちで用意してもらうかな。
––––参加総数は67組457名(2024年度)ということで、運営はとても大変そう…!論文を読んでいて印象に残ったのはサラリーマン風のおじさんたちのダンスについての記述かな。「上手さを追求しているわけではなく、ただ踊りたい!という原動力が大きなエンジンとなっている表現。眩しすぎる熱意、そして少しの気まずさも含めて、心に揺さぶりをかけてくる切実さ。この切実さは一体なんなのだろうか?」と書かれています。
論文自体がエスノグラフィーという実際のフィールドに入っていって起きた出来事や人を記述していくという研究手法をとっているので、私のフィールドノートに基づいたものとかが多くて。今言ってくれたみたいな、サラリーマンみたいなおじさんたちがダンスしてる記述とかはまさにそのフィールドノートから持ってきたものかな。なんか毎年泣きそうになりながら出演者の表現を見てる…切実に伝わってくるものがあって。
––––表現を記録しておこうという思いが強いのかな。
ありのままの飾られていない表現欲がそこにはあると感じていて、そこから伝わってくる熱みたいなのがある。そしてやっぱりアマチュアの表現ってどうしても消えていってしまうことが多い。記録がないことでなかったことにしたくなくて、実際そこに表現があったんだということを私は言っておきたいし、残しておきたい。
––––なんだかアツいね。1DAYパフォーマンス表現街のキャッチコピーが「うまくなくてもええじゃないか やってみてもええじゃないか」ということで、これが論文の柱にもなってると思うんだけど、このキャッチコピーについては率直にどのように感じていますか。
キャッチコピー自体は音まちのディレクターが発案したものですが、そうですね、色んな人の受け皿になっていると感じる。実際に応募してくる出演者の中には自分の表現がこれでいいのかなみたいに迷いながら応募してくださる方もいたりして、そういう人の背中を押すような言葉であり色んな表現を受け止める土壌になっていると思います。
––––なるほどね。一方で商店街で表現をするということはたくさんの人の目にふれるということだと思うけど、行き交う人の目線の中には表現に対する嫌悪感や拒否反応というのも出てきてしまうよね。
まちなかでプロジェクトを起こせば必ずしも好意的な反応ばかりではないと思っていて、逆に私はみんな同じ反応をしているということの方に違和感があるかな。普段馴染みのない表現に出会う人もたくさんいて、それを見ることで今まで見ていなかった存在に気づくということはあると思う。平穏に暮らしているように見えて、私たちは何かを多分知らないうちに見ないようにして生きているんだと思うから。
––––アツいねやっぱり。卒展での論文発表は資料とか写真とかを見せながら話す感じなのかな。
そうですね、1DAYパフォーマンス表現街を見たことがない人もわかるように映像とか出しながら論文に書いたことを話せればなと。
––––楽しみです。最後に、恒例のメインビジュアルにちなんだ質問していいですか?輪と輪がつながったとか重なり合ったというようなことはありましたか。
自分が現場にいて色んな人と関わっていることかな。論文書いてる時には自分の現場での経験と既に言われている理論的な先行研究とかとつながるなってこともあった。そういう意味でつながりの輪が広がってる。1番大きいのは、1DAYパフォーマンス表現街に携わっていることで、誰かの人生のどこかに関わってるということ。その輪が広がっていったらいいなと思います。
––––名言ですね…さてそんな稲垣さんは卒展の委員長ですね!ぜひ読んでいる方に一言お願いします。
音環って本当に色んな研究をしている人がいて、他のWebインタビューを読んでもらえばわかると思うんですけど、様々な視点を持った発表があると思うので、なんかちょっと気になってるぐらいでも気軽に来て欲しいなと思います。それぞれの学生が研究した成果をお見せできるまたとない機会なのでぜひお越しいただければ。お待ちしております!
––––1DAYパフォーマンス表現街が外に表現を開いていくという志向を持っているように、この音環音音卒展も外に開いた感じにしたいですね。さて次回は連載最後の研究室です…お楽しみに!
◎稲垣佳葉さんの論文発表は以下の日時に行います。
2/14(金)15:30〜16:00(第2講義室)
2/15(土)16:00〜16:45(第1講義室)ゲスト:石橋鼓太郎
2/16(日)10:30〜11:00(第1講義室)