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卒展WebインタビューVol.2 グランドピアノの鍵盤側と正面側の音の違いって…?


各研究室から一人ずつインタビューに答えてもらいそれぞれの作品や研究についてじっくり話を聞いていく連載企画の第二回目。今回はプロジェクト音響の丸井研究室から佐藤匡介さん。グランドピアノの鍵盤側と正面側で音の聞こえ方が異なることについて研究したとのこと。一体どういうこと…?


佐藤匡介さん
佐藤匡介さん


––––論文は「グランドピアノ演奏音の受聴位置による聞こえ方の違い」というタイトルですが、ピアノに元々興味を持っていた?


17歳までピアノ教室に通っていて、ピアノはずっと弾いていました。グランドピアノを研究しようとなったのは、ホールでグランドピアノを弾いたとき、「音が飛んでいく感覚」が面白いなと思ったのがきっかけですかね。


––––この論文で書かれているのは、グランドピアノを弾いている人と正面側で聞いている人とで聞こえる音が違うということだけど、僕自身もホールでグランドピアノを弾いたことがあるので確かに…!と思いました。ホールでグランドピアノを弾くとき、弾いている側にとっては音響的に変な感じがする。実験ではどういう結果が明らかになりましたか。


ピアノに近いほど明瞭さ・近さ・迫力・好ましさ・鋭さの評価が高く、ピアノから遠いほど残響の多さ・やわらかさの評価が高くなっていました。また、鍵盤側は「きれい」「好ましい」、ピアノ正面は「こもった」、正面上手側は「キラキラした」「金属的な」「はっきりした」「力強い」「響きのある」「華やかな」「鋭い」の評価が高くなっていました。ピアノの正面側は蓋の影響があって割と鋭く音が聞こえてくる、というのはこれまでの先行研究でも明らかになってるし、皆さんの経験則でもそうだと思うんですが、正面側の音も色々あって、上手寄りだと鋭さが強くなったり。


––––それはなんでなんだろう。そもそもピアノってどこから鳴っていると考えればいいのかな。


それがわかんないんですよね。便宜上ピアノの真ん中っていうのを実験する上では定めないといけないんだけど、定量的に真ん中というのがわかっているかと言われたらそうでもない。高い音と低い音とで弦の張ってある位置は違うし、スピーカーの役割をしている響板も、具体的にどの点から音が出ているかなんてわからないんですよ。





––––へえ…そうなんだ…!ピアノって意外と不思議な楽器なんですね。実験の方法についてだけど、個人差多次元尺度法という聞き慣れない言葉が出てきました。これはどういった手法なんですか?


そもそも多次元尺度法は、刺激同士の距離データをもとにマップを作る分析方法で、個人差多次元尺度法では、評価者個人がマップの各次元をどの程度重要視して評価したかを見ることができます。人によって地図の縮尺が違うみたいなイメージかな。マップでは似ていると判断された刺激同士は近く、似ていないと判断された刺激は離れた位置に分布する。 


––––ピアノ専攻の人とプロジェクト音響の人でディスカッションによって評価語、「やわらかい」とか「力強い」といった演奏音に対する評価の言葉を決めていったというところがとても面白いと思いました。


普遍的な実験に使う語彙を形成するために、知り合いの学生を何人か集めてきて、「この言葉だったらこの刺激の評価に適しているな」といったようなディスカッションをしました。その中でも「生っぽい」という言葉があって、定義しなきゃいけないんだけど、そういう時には「生っぽい」の反意語ってなんだろうって考えた。やっぱり人によって定義が違ったら、言葉は一緒だけど評価軸が微妙にズレてしまうので。


––––実験を経て出た結論について、特にこれを伝えたい!というのはある?


1kHzよりも下ぐらいの低い周波数成分が、ピアノからの距離とかそれに関係するような迫力とか鋭さとか、そういう評価と対応してるということがわかったこと。あとは、鍵盤側と正面側で音の大きさの感じが全然違うということ。2dB〜4dBくらい違っていて、鍵盤側の方がちょっと小さく聞こえる。


 ––––確かに、そうかも。


そもそも響板って水平だから、斜めに開いてる蓋に反射して正面に音が大きく聞こえるのは普通に考えたらそうだよねって話なんですけど、逆に鍵盤側に音を飛ばすものってなんだろうという。


––––ピアノ専攻の人たちはその音量差みたいなものを意識してるんですかね。


結構意識してなかったみたい。一人だけ自分で実験してみたっていう学生がいて、音が出てる状態のピアノの周りを歩いてみて音を聴き比べると「ここではこんな音がしてるんだ」というのがわかって面白かったですって。


––––自分の知らない音を発見できるかもね。論文の話からは脱線するけど、学外での活動も多いよね、どんなことをしていましたか?


録音の仕事とかさせてもらうことが多かったです。あとは、これは自分ならではかもしれないですが、調律の学校に行っていたりもしました。ピアノの研究をしている以上、ピアノに関係することは基本知っておきたくて。


––––調律の学校に行くとは…。ピアノへの愛がとても深いんですね。最後に今年のメインビジュアルは音環のロゴマークである輪が連なっていくようなイメージなのですが、それにちなんで4年間を振り返ってこの輪とこの輪が重なったなと思うようなことはありますか?


録音の仕事をやると、色々な人と仲良くなれる。自分の交友関係では手が届かないような人とも一緒に仕事することができました。演奏者さんとも多く知り合って、自分で実際に演奏会を作ってみたりしました。そんな中ピアノの録音をやっていると、ピアノの中から変なノイズが聞こえる時があるんですが、ピアノの研究をしてるから原因は自分でわかって解決できることがある。そういう意味で録音とピアノ研究の二つの輪が重なったことはありますね。


––––なるほど、ピアノの専門家として録音の現場に立ち会うと他の人とは全く違う視点が持てそうです。論文発表楽しみにしてます、今日はありがとうございました!


◎佐藤匡介さんの論文発表は以下の日時に行います。

2/14(金)10:00〜10:30(第1講義室)

2/15(土)15:30〜16:00(第2講義室)

2/16(日)11:30〜12:00(第1講義室)

主催:卒業研究発表会2025実行委員会

助成:武藤舞音楽環境創造研究助成金

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