各研究室から一人ずつインタビューに答えてもらいそれぞれの作品や研究についてじっくり話を聞いていく連載企画。第四回はプロジェクト創作の後藤研究室に所属しているジェームズアレグザンダー帆起さん。自身の声だけで作ったという音楽作品はどのように出来たのでしょうか…?

––––卒業制作のテーマは「声を駆使した音楽表現の可能性–多重録音と夢・無意識の音響的表現–」ですが、声の多重録音については昨年度のアートパス(2、3年生の研究発表会)でも取り上げていました。卒業制作はどのような形になったんですか。
昨年度は音を聞かせるだけではなくて「寝ている」というパフォーマンスをしたんですけど、今回は視覚的な補助なく音だけの表現で「寝ている頭の中に入ってもらう」という作品にしました。
––––音だけの世界で夢を表現しようとしたんだね。今回の作品を聞かせてもらいましたが、自分の声だけでこんな音も作れるのか…!と衝撃でした。
やるなら全部声っていうのをマストの条件にしてたから。昨年度は環境音とかにあまり注力してなかったんだけど、景色を想像してもらいたかったのでそこは力入れました。
––––嵐の音とかすごかったけどあれはどうやって作ったんですか?
あれはですね、自分としては発明だったんですけど、まず雨の音、例えば「パッ(唇を離す音)」というのを10個ぐらい録音して、それを違うチャンネルに送る。それを10回繰り返すと100個チャンネルができる。そういう要領で繰り返す中でディレイをかけてちょっと遅らせたりピッチを下げたりすると、音色が変わってくる。そういうのを無数にやっていくと「バサバサバサッ」という嵐の音ができた。
––––チャンネル数がとてつもなく多くなりそう。
そうだね。でも今回はバスチャンネル(1トラック内に収容できる複数のトラック)に送ったものも多いから…最大300か400ぐらいかな。
––––それを一つ一つ調整していくなんて…努力の結晶ですね。作品のタイトルは「南国旅行記」だけど、なぜそういうテーマにしたんですか。
やっぱりどういう作品にしますかっていうところが一番大変で、色んな曲を作ってみるんだけどこれは違うなっていうのもあったりして。海の音作ってみるかと思い立って波の音みたいなのを作り始めてこれだったら結構声でやる価値あるなと思って。で、ストーリー性を持たせる為に旅行にしようかなという感じですね。
––––70年代くらいのトロピカルなテイストのポップスも聞こえてきて楽しかった(笑)途中、民謡みたいな歌が入ってたよね。あれはどういう歌なんですか。
その部分の夢のストーリーとしては、ある男の乗った船が沈没して、水の中に落ちていって男は海底に倒れちゃう。その倒れているところに「おいさ、おいさ」みたいな人が通りかかるっていう訳のわからない不思議な世界観なんだけど、そこで漁師の歌とかを調べていて、滋賀県のわらべうた「タニシ拾いの唄」を見つけて使いました。
––––夢の中って訳わからない人たちが急に出てくる時あるよね。話は変わるけど、後藤研究室って他にどのような作品を作っている人がいるんですか。
プログラムを組んで映像と音声を組み合わせている人がいたり、フルートの音を用いたライブエレクトロニクス作品を作っている人がいたり。全然プログラミング関係なく、大きな物体を動かしてるような人もいる。
––––後藤研の人から影響を受けたことはありますか。
基本的に全部影響受けてると思うけど、先輩で結構デカいインスタレーションをやっている人がいて、その制作過程について聞きながら「こういう段階を踏んで作品が作られるんだ」っていうね。鑑賞者にとっては見ることが一番最初で、それを紐解いていくというのが楽しみ方の一つだと思うけど、作り手としては逆算的にコンセプトから始まるものもあるだろう、と。
––––なるほどね。大学外ではバンド活動を精力的にやってますが、後藤研との関連性はあったりしますか。
全くないね。バンドって基本的に好きなものをぶち込んでるから。バンドではコンセプチュアルなものは作っていないというか、結局先に「作っちゃう」方が好きかもしれない。前は学校でやろうとしてることの中にバンドでやっていることを入れたがってたけど、全く別物って考えた方が逆に見えてくるところがすごいある。
––––物事を分けて考えてそれぞれのフィールドで自分の納得のいく作品を作る。それはある意味で四年間の成長なのかもしれないね。最後に、今年のメインビジュアルになぞらえて、輪と輪が重なったというような経験があれば聞きたいです。
中学の時に円と円の重なった部分の面積を求める問題があってマジで苦手だったけど(笑)、他人の輪っかに片足突っ込むみたいなことは大学に入って一番恐れなくなったな。ちょっとずつ踏み込むとかじゃなくて輪っかを被せにいく。被せてみてここは違うというところがあったらちょっとずつずらしていく。自分の中で大事な心情は守っておく。こうやってバランスを取れるようになったかなという気はする。
––––意外にもとてもいい答え。四年間振り返ってみても行動力が凄まじかったと思う。集大成をぜひ卒展で見にきて欲しいですね。今日はありがとうございました!
◎ジェームズアレグザンダー帆起さんの作品は音楽演習室での上演となります。(整理券制)
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